はじめに
前回は「日本原産の野菜」についてお話ししました。
今回は、「日本原産のハーブ」について書いていこうと思います。
「ハーブ」とは、皆さんもうご存知ですね。
一般的に料理の香り付けや保存料、薬、防虫などに利用される植物のことを言います。
代表的なハーブというと、パセリ、バジル、コリアンダー、フェンネルなどが思い出されますね。それでも、100種類はあると言われています。
その中でも、今回は特に「和ハーブ」に焦点を当てていきたいと思います。
和ハーブとは?
古来より自然の四季の恩恵を受けて、豊潤な土壌で稲作などを営んできた日本人にとっては、植物は我々の暮らしに深く根付いていました。
文明の発展や海外文化の導入で一時期忘れかけてはいましたが、最近になってまた植物が身近にあるライフスタイルを見直そうという動きがあちらこちらで見られます。
そのような中で、西洋のハーブと同様に、日本古来から親しまれてきた、日本独特の香りや風味を楽しむ香草類を「和ハーブ」と呼び、最近注目を集めています。
例えば、麺類の薬味には「大葉(シソ)」や「生姜(ショウガ)」、お刺身には「山葵(ワサビ)」、ウナギの蒲焼には「山椒(サンショウ)」、草餅には「蓬(ヨモギ)」など、何も特別なものではなく、我々の日常生活にすっかり溶け込んでいる存在なのではないでしょうか。
日本原産ではない和ハーブ?
料理の風味付けとして、日本独特の味覚を演出してくれる「和ハーブ」ですが、実は日本原産ではなく他国から日本に伝わってきたものもあります。
古来より日本人に愛され、日本の食卓には欠かせない「和ハーブ」なのですが、「もともと日本のものではない!」、それはいったい、どんなハーブなのでしょう。
それでは、ここで問題です。
以下の「和ハーブ」の中で、日本原産ではないものはどれでしょうか?
① 山椒(サンショウ)
② 蓬(ヨモギ)
③ 大葉(シソ)
④ 山葵(ワサビ)
⑤ 茗荷(ミョウガ)
どれもお馴染みの食材ばかりですね。
さて、どれでしょう?
・・・
・・・
・・・
・・・
それでは、解答です。
「③大葉(シソ)」「⑤茗荷(ミョウガ)」が日本原産ではありません!
少し解説していきましょう。
③ 大葉(シソ)
紫蘇(シソ)には、非常に多くの品種がありますが、主に食用として使われるのは「青紫蘇(アオジソ)」と「赤紫蘇(アカジソ)」です。青紫蘇は刺身のツマにしたり天ぷらにしたり、赤紫蘇は梅干しの色付けに使われていますね。
この「シソ」ですが、日本原産ではなく、ヒマラヤやビルマ、中国南部が原産なんですね。日本には奈良時代に中国から渡ってきたようです。当初は薬草として栽培されていましたが、室町時代の頃から食用としても利用されるようになりました。
今でも中国では日本に輸出するために栽培はされているようですが、中国人は「シソ」を食べないようですね。中国の料理は味が濃いために「シソ」の風味が消されてしまうから(「シソ」を使う意味がない)と言われていますが、中国では「シソ」は雑草みたいなものだから、という説もあります。
ただ、広い意味で言えば、イタリア料理でよく使われる「バジル」もシソ科ですし、韓国料理で使われる「エゴマ」もシソ科です。
世界中で愛されているハーブなんですね。
⑤ 茗荷(ミョウガ)
独特の香りとシャキシャキした食感が魅力の「ミョウガ」ですが、冷奴や素麺の薬味として欠かせないですね。初夏の頃が旬なので、「ミョウガの天ぷら」というと、夏の訪れが近い事を感じる方も多いのではないでしょうか。
実はこの「ミョウガ」は非常に微妙なんですね。日本の山野に自生しているものもあるのですが、人間が生活していたと考えられる場所以外では見られないことなどから、現在では東アジアが原産地と考えられています。
日本には平安時代の頃に中国で栽培品種化されたものが渡ってきたようです。
ただ、現在では中国では漢方薬として使われており、食用として栽培しているのは日本だけ、という話です。外来の品種ですが、しっかりと「和ハーブ」として根付いているんですね。
ちなみに、我々が食べているコロンと丸い形をしているのは、「ミョウガ」のつぼみの部分なんですよ。
さて、残った
① 山椒(サンショウ)
② 蓬(ヨモギ)
④ 山葵(ワサビ)
これらは日本の原産で、生粋の「和ハーブ」ですね。
こちらも少し見ていきましょう。
① 山椒(サンショウ)
日本全土に分布しており、朝鮮半島でも見られます。
ただ、「日本の山椒の仲間」ということでは広く世界に分布しており、中国の四川料理でよく用いられる「花椒(かしょう、ホアジャオ)」も「サンショウ」の仲間です。
日本では古くから香辛料、薬用として使われており、縄文時代の遺跡から出土した土器からも「サンショウ」の果実が発見されています。
ウナギの蒲焼には絶対に欠かせないですね!
② 蓬(ヨモギ)
こちらも日本全土で自生しているほか、中国や韓国でも見られます。
用途としては「草餅」がもっとも知られていますが、新芽をおひたしや汁物の具にしたり、天ぷらにしたりされますね。
こちらも、「日本の蓬の仲間」ということでは、ヨーロッパ、アジア各地、北アフリカなど世界の各地で肉料理や魚料理の色付け、風味付けに使われているようです。
また、お灸の「もぐさ」としては、日本を始めとして中国、韓国、モンゴル、ベトナムなどで使われています。
⑤ 山葵(ワサビ)
ツーンと鼻に抜ける辛味がお刺身には欠かす事のできない「ワサビ」ですが、薬草としては飛鳥時代の頃から用いられていたようです(奈良県にある飛鳥時代の古墳から出土した木簡に、「ワサビ」のことが書かれています)。
食用として栽培が始まったのは、江戸時代初期と言われていますね。美食家として知られている徳川家康が「ワサビ」の風味を非常に気に入って、栽培を推奨したということです。
寿司の薬味として使われ始めたのも江戸時代からで、その風味とともに、(冷凍、冷蔵の設備がない時代でしたので、)細菌の繁殖を抑えて食中毒を予防する働きがあることから広く使われるようになったとか。
まとめ
皆さん、クイズは正解できましたでしょうか?
「和ハーブ」と言えども、純粋に日本原産でないものも幾つかありましたが、いずれも古い時代から日本人に愛され続けてきて、今ではどれも「和ハーブ」の立派な一員と言っても差支えがないものばかりでしたね。
その歴史を知ることで、より一層「和ハーブ」への愛着が沸いてくるような気がしますが、いかがでしょうか。